研究会B
理論言語学実践
Practices in Theoretical Linguistics
■研究会の目標:この研究会「理論言語学実践」では、学期ごとに言語学の様々な枠組みに触れ、対象を分析し、理論言語学における参加者の知識と分析力を高めることを目標とする。
■2025年
・春学期のトピック:言語の変化と変異について(こちらのリンクを見てね)
・夏学期のトピック:意味論(初級~中級)(こちらのリンクを見てね)
・秋学期のトピック:動詞について(こちらのリンクを見てね)
■選抜課題:リンク先の課題を行い、回答を教員にメールすること(メールはオンライン・シラバスの連絡先情報を見てください)
■理論言語学とは?:言語学という学問分野は勘違いされやすい学問分野です。例えば、初対面の人によくこんなことを聞かれたりします:
「何か国語しゃべれるのですか?」
「20言語です」とか「100言語です」のようにたくさんの数を答えてくれるのだろうと期待してのご質問だとは思うのですが、アメリカ、イギリスの研究者では「1つです(英語だけです)」という人が大半だし、私も日本語と英語しか流ちょうにしゃべれません。
そうなのです。言語学を専門にしている人というのは、決して、語学が堪能な人というわけではないのです。もちろん、語学に堪能な人が言語学者であってもいいし、そういう人はたくさんいます。ですが、言語学の目標というものは、語学のエキスパートを養成することではありません。
「それでは、言語学の目標とは何なのでしょうか?」
それは、ことばに潜む認知システムの解明なのです。コミュニケーションを取る動物は人間以外にも知られています。ですが、「外国語」なんてものが存在してしまうほど高度な記号体系を発達させた種は人間以外に知られていません。それほどまでに複雑な人間の言語は、ただただ偶発的で、無数のランダムな規則の寄せ集まりなようなものなのでしょうか?
いや、そんなことはないのではないか、と考えるのが、言語学者です。そして、この一見複雑で、雑然として見えることばの背後には、どうも人間の認知機能の特徴が隠れているのではないか、というように考えるのが現代言語学の出発点です。そこで、ことばのシステムを研究することで、他の動物とは違うヒトという種に特有の認知(脳)機能のありようを考察しています。
そんな言語学の一分野に理論言語学と呼ばれる分野があります。現代の言語学では、仮説というものを積み重ねてこの言語システムについての理解を深めているのですが、歴史の積み重ねで、この仮説が立ち上がり、寄せ集まり理論体系と呼べるものを形成してくるようになりました。ただし、全ての研究者が単一の理論体系のみを前提に研究をしているわけではなくて、理論にはいろいろな流派があります。あらかじめどの理論が正しいのかなんて、我々にはわかりません。だから、色々な理論を比べたり、新しい理論を作ったり、そういう営みの中でことばの体系についての理解が深まっていく、というのが理論言語学に携わる醍醐味です。
■参加を迷っている人へ:この研究会では、そんな理論言語学の実践に、みなさんと一緒に参加していきます。セメスターごとに、トピックを決めて、その分野に関して、みなさんと、理論言語学の実践を味わっていきたいなと思っています。
当然、理論言語学に参戦するためには、既に存在している「理論」は勉強しなくちゃいけないです。いきなり、「ねえねぇ、いいこと思いついちゃった」と言っても、その思いついたものが、すでに誰かが思いついていたら、意味がないですからね。そのため、知識のインプットには、しっかり、みっちり時間をかけて勉強してもらう予定です。ハードで抽象的な議論を基にした理論もあるので、そのつもりで。
一方で、だけど、みなさんには、ぜひ知識のアウトプットも楽しんでいただきたいと思っています。フレッシュな頭で、自分なりの分析/仮説というものを立ち上げて、それを論証していく楽しさをぜひぜひ楽しんでほしいと思います。
「どんな興味を持っている人がドンピシャでこの研究会に向いているでしょうか?」
文法が好きな人でしょうかね。中学高校時代に、英語や古文や、漢文や、日本語や、あるいは、このSFCというキャンパスで新しい言語を勉強してきたときに、「なんか、英語の〇〇って、日本語の△△と似てない?」とか「英語の文法の○○と△△って、学校では別物って習ったけど、もしかしたら□□っていうことで共通しているんじゃない?」みたいに、自然と文法に対して「なんでこの言語こうなっているのだろう」とか「もしかしてこういうこと?」みたいな分析をしてしまう人にはとっても向いているかもしれないと思います。わたしの学部生時代はそんな感じでした。
「自分は語学を堪能になりたいから、言語学の研究会を選ぼう」と思っていたので、言語学の目標が、語学のエキスパートの養成ではない、と聞いたいま、ちょっと迷っているという人もいるかもしれませんね。ですが、もちろん、ここは、語学が好きな人が集う場所でもあります。
なので、大いに悩んでください。自分の興味は自分しか分からないですから。もちろん、すべての参加者の人を満足させられるかは分からないですが、アカデミックな言語分析というものを楽しみたいのであれば、ぜひ受講を検討してみてください。
■扱うトピック:理論言語学には、その対象によって、いくつかの下位分野があります。その基礎については「理論言語学基礎/Introduction to Linguistics」という講義で扱う予定なのですが、カリキュラム上の諸事情で、2025年度は秋冬学期に開講することとなってしまいました。
ですので、今年度、研究会に来るみなさんは、基本的に知識ゼロの状態で入ってくることになるかと思います。
■過去の研究会:
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Spring 2026: To Be Announced
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Spring 2025: Language change and variation